-絶え間なく鍛えた者だけに栄誉が訪れる-

2009-02-15

冬の喝采-黒木亮-

どうやら僕は読書週間(月間?)に突入したらしい。昨日、図書館で借りてきた。

北海道生まれの著者(本名:金山雅之)の陸上人生(中学から大学(早稲田)まで)の自叙伝的小説。
練習日記をもとにしているので、当時の練習メニューなどが分かる。

北海道出身のランナーであるので、北海道に関わる地名があちこちに出てきて非常に親しみ安い。特に道東にあっては「浦幌」「芽室」の地名も登場する。
当時、北海道にも大きな駅伝大会があったようで、それらに関することがらが新鮮に感じられた。この本を読んでなかったらそういう駅伝大会の存在を知ることはなかったと思う。

自叙伝的小説っていうジャンルが微妙だ。どの部分が本当でどの部分がお話なのか分からない。
面倒くさいので「全部実話」だと認識して読んだ。
中学から始めた陸上(中長距離)、高校1年で一応の成果を見つつ、目標を持って練習を続けるが「怪我」の為、高校2年~大学1年までは「大会」に出場することは叶わなかった。
走らないことがどれほどつまらないことかランナーの端くれの自分にも分かるつもりだが、高校の2年間は「走らない陸上部員」ということで補強運動ばかり継続していたというのだから、陸上にかける思いの強さが伝わる。

早稲田大学へ入学後、一時は競技を諦めていたが、とあることがきっかけに体育の助教授に相談。怪我を克服すべく紹介してもらった病院での治療方法が成功。大学2年になろうとする春に再び一線級のアスリートを目指して競走部に入部(当時の監督である故中村清に「練習生からスタート」という条件付きだった。)
同級生に瀬古俊彦がいるなど、面白いエピソードなんかが満載か?と思いきや、主人公はここでも怪我との戦いを余儀なくされる。
加えて、主人公を最も悩ませたのは、中村監督の存在だったに違いない。
中村監督は個性の固まりのような人物であり、主人公に限らず選手と監督は折り合いに悩んだ様子がわかる。(沢木監督だったら...という記述に知らない癖に「ああ、そうなんだ」と納得してしまった。)

ちなみに早稲田では中村監督の手により既に「リディアード方式」のトレーニングが行われていたこと。
そもそもリディアード方式は「東京オリンピック」での陸上選手への強化方法として採用されていたという古い歴史をも知り、ちょっと驚いた。

タイトルの「冬の喝采」から主人公は箱根に憧れ、箱根を目指していたお話かな?と思っていたのだが、読むにつれ主人公自身は「なにがなんでも箱根」という気持ちはなく、当時の早大競走部(中村監督をはじめ早大OB主導)の事情(むしろ、関東の大学が持つ共通の事情?)により、箱根重視にならざるを得なかった印象。
そのせいか、箱根駅伝を書いている部分は詳細であるばかりか、客観性というか冷静な描写なので読んでいて非常に分かりやすかった。

伝統とか襷にかかる思いというような「外野が声高に叫ぶ」センチメンタリズムというようなものがなく、単に選手は選手に与えられた役割を果たし、自分越えを目指すというストイックな面の記述が多いように思う。
もちろん中村監督は「精神論」を常日頃の講話の中で指導しているので、主人公にはそうしたものに対する反発があったのかもしれない。

なので、読んでいて「意外とあっさり」風味なのに驚いた。

エピローグで主人公は
-前略-
もっと雪の少ない場所で、中学か高校時代から小出義雄氏のようなコーチの指導を受けていたら、自分はもっとやれたはずだ
-以下略-
と振り返る。

「雪の少ない場所」という意味について興味深いことがある。
雪の上を走るということを体験したことのあるランナーなら思いあたるフシがあると思うが、雪道は滑るので、どうしても滑らない(滑って転倒することのない)フォームにならざるを得ない。具体的には膝をあまり高く上げないストライドの小さなフォームになってしまう。
中学生から中長距離に目覚め降雪(積雪)のある冬期間でもランニングを続けていたことが書かれているのだが、膝の上がらないフォームが身についてしまい後々になって後悔しているようだった。

★★☆☆☆

--追記
故中村清監督に関するエピソードについて、瀬古俊彦著「マラソンの神髄」にはほとんどない。

2 コメント:

カナダ さんのコメント...

私もこの本読みました。詳細を極め作者の書きぶりに感服した記憶があります。
私は、中村監督が著者に対して箱根を走っているときに監督車から「おまえはいつかやってくれると思った。」というようなことを言って初めてやさしい言葉を投げかけたところに感動しました。しかしこのくだりもその後の監督の言葉で台無しになっていましたが。

それにしても中村監督のことが瀬古選手の本にないのは驚きでした。あれほどかかわった監督なのに・・・。

たしろ さんのコメント...

To:カナダさん
ふふふ、瀬古の師匠である中村監督という印象が強かったので、この本で中村監督の印象は随分と変わってしまいました。

瀬古の本に中村監督のエピソードが全くないワケではありません。
どちらかというと瀬古は中村監督のエッセンスを完全に吸収し、瀬古自身の血肉となっているので、わざわざ中村監督のエピソードが出るまでもなかったのかもです。
死ぬかもしれないギリギリの練習をしていても、まさに死ぬかもという時に止めてくれるのが中村監督だという生死を捧げた徒弟関係というか相互信頼関係があったようです。

金山選手と中村監督との関係とは微妙な違いがあるんだと思います。